【第6話】「隅々まで意志を入れる」ものづくりにかけるプライド
2017-10-02
2017年1月に地鎮祭を執り行ってから9か月、新工場竣工まで1か月を切り、建設現場内に構えられていた事務所も撤去された。最後の仕上げに向けて、作業が急ピッチで進められており、現場では一層緊迫感が高まっている。
外壁には最後の最後まで検討を重ねたMIZUKIのシンボルマークがついに掲げられた。
建設現場のプロフェッショナルが集まり毎週行われている定例会では、最終工程に向けてさらに妥協のない議論が展開されている。その中で、一本のアンテナの設置位置について決定する際、建屋の構造上の問題だけではなく、見栄えやメンテナンスの観点などを盛り込みながら、白熱した議論がなされていた。同席していた代表の水木はこう語った。
「決定しないといけない案件は山ほどある中、『たかがアンテナ一本』についても素通りせず常に真剣勝負で打ち合わせをしてくれ、関わってくださっているみなさんのプロ魂を毎回見せつけられている。 『妥協しないモノづくり』という点で、私たちが目指す仕事への姿勢と共通点を感じ、本当に嬉しく、感謝をしている。また、『隅々にまでしっかり意志を入れた新社屋』を完成させたいと常に願っている私にとっても、その実現に大きく近づいていると実感している」。
台風シーズンを見込みお盆返上で工事を進めてくれていたこともあり、「引き渡し日は死守できると思う」という現場監督からの力強い報告があった。引き渡し日となっている10月31日は目前である。
竣工も近づく中、社員で新工場を内覧する機会があった。
建屋に一歩足を踏み入れると、塗装が完了した真新しい壁や天井からつり下がっているエアーの配管、そして今までの工場にはなかったガータークレーンなどが目に飛び込んでくる。「広いな」「すごいなぁ」と感嘆の声を漏らす社員の中で、顔を険しくした者がいた。
製造技術部 第1グループのグループリーダーであり、10月31日の引き渡しから約2週間で100台以上の機械の移動と安定稼働を計画している「工場移転プロジェクト」の中枢を担う鎌田だ。
今回は、移転プロジェクトを先導している鎌田に現状の様子をヒアリングし、現場の様子や今後の展望をレポートする。
“バージョン10”でやっと見えた、製造ラインの配置
移転先の新工場は現在の工場からたった数百メートルの距離にある。しかし、最も重いもので15トンを超え、約100リットルもの油が入っている製造機械を移動させるには、数日前から付属の備品を取り外したり、油を抜いたりとその作業は思った以上に大がかりだ。
当初は移転作業が発生する2週間は生産を停止する予定であった。だが、常日頃「メーカーの困りごとを解消していく」ことを社是としている私たちが、製造ラインを止めていいのか?と検討が重ねられ、最終的には生産を止めるのは最低限の3日とし、毎日数台の搬出・搬入を行い、停止と再稼働を同期させながら移転作業を進めるという方針となった。
現在は、新工場の設備・機械の配置案が決まり、10月に入ってからは週に1度程度、グループごとに搬出に関する検討会が開かれるところまで段取りができてきた。 しかし、ここに至るまでに社長直下のプロジェクトとして鎌田を含め各部の代表者が集まり進めてきた「工場移転計画」の作成は、生産効率やクオリティの更なる向上を叶えるためのベストなレイアウトを完成させるべく、今まで培ってきたモノづくりのノウハウやプライドをかけた検討が繰り広げられていたそうだ。
新工場の最新のレイアウト図を見ながら、鎌田はこう語り始めた。 「この配置が決まるまで、部長の杉本、第2グループの瀬川グループリーダー 、そして私を中心に、10回の改訂版を作成しました。新工場で中枢を担う設備の洗浄機をどこに据えるか、そこを中心に機械や通路をどのように設定すれば人や原料、そして製品が一つの無駄もなく効率的に移動できるかを徹底的に検討しました」。
山梨工場の統合も新工場設立の大きな目的の一つだ。会社としても念願の工場統一を実現することで、輸送時間や人員配置のロスも減り、生産能力やスピードをさらに飛躍させようと考えている。品質向上はもちろん、生産性を従来の2倍にしようという具体的な目標もある。それらを実現させるには、新工場の設備や機械の配置にかかっているといっても過言ではない。
「検討を重ねている時期は、現場での作業中はもちろん家にいる時も、ふとした瞬間に『この機械をこっちに配置したらもっと効率的な流れが生まれるかもしれない』とアイデアがよぎり、その都度プロジェクトメンバーと話し合いを重ねました。誰かがアイデアを出すとすぐに図面に反映しさらに検討を深めるといった地道な作業を繰り返し、10回目の改訂でようやくみんなが納得するレイアウトになったんです」と鎌田。 改訂を重ねた新工場の配置図には、MIZUKIが『世界に誇れる元気な100年企業』を実現するべく、決意とその具体的なプランが込められているのだと感じた。
失敗してもめげずに前進せよ
また鎌田は次のようにも話す。 「新しい配置が決まった今でさえ、目標として掲げた生産性の高い仕事が本当にできるようになるのだろうかという不安が正直頭をよぎります。そもそもイメージ通りにすべての機械が所定の位置にすべて入りきるのだろうか…と考え出すときりがないほどです。ただ今言えるのは『やってみるしかない』ということ」。
そんな時、鎌田はいつも現場で言ってきている「失敗してもめげずに前進せよ」という言葉を思い出すそうだ。
「製造を担う我々は、入社後、機械の操作を一人で遂行できるよう指導されます。しかし数回教えらえた程度で製造の肝となる「勘どころ」を掴むことなんてできません。モノづくりのプロとなり、プライドのある仕事ができるようになるためには、失敗して挫折するのではなく、「どうしたら次はうまくいくだろう?」と試行錯誤し、少しずつでも前進させるマインドが必要なのです。ですから現場では、失敗しても諦めずに再度トライしてみようと常々言っています。そのようなマインドを皆で持つことで、徹底した『不良品ゼロ』『納期遵守』を実現してきました。 たとえ新工場移転の中で予測不可能なことが起きたとしても、現場のスタッフと頭を突き合わせて話し合い、そして前進していくという気持ちがあればきっと最後までやり遂げられると思っています」。
今までもそしてこれからも変わらない、モノづくりを支える一人ひとりのMIZUKIマインド。ここが揺るがない限り、新工場に移転してもさらにスタッフが団結して、大きな目標に向かっていけると鎌田の話を聞きながら胸が高鳴った。 また、10月から各グループ で行われる移転に関する打ち合わせは、スムーズな移転の達成に向けた検討だけではなく、変化するお客様のニーズに対応できる現場の一人ひとりのスキルアップについても意識を高めていく時間にしたいと語る鎌田の横顔に、移転後の飛躍を実現させる決意を感じた。
代表の水木が言う「隅々にまでしっかり意志を入れた新社屋」の完成には、建設現場の関係者皆さんの頑張りだけではなく、鎌田をはじめ、日々製作の現場で汗をかきながらモノづくりに励むスタッフやその現場とお客様とを結ぶ営業部のスタッフをはじめ、MIZUKIの全スタッフの強い意志や団結が不可欠だ。 新工場の引き渡しまでカウントダウンが始まった今だからこそ、スタッフ全員の心の隅々にまでそのことを刻んでいかねばと改めて思った。