【第3話】現場を預かるプロたちの誓い ~ 新工場を支える「2つの土台」~
2017-03-30
新工場予定地では、ショベルカーやクレーン車が地面を掘削し、杭を打ち込む作業が佳境を迎えている。
この作業は、地面に約20メートルもの穴を掘り、そこに杭を打つことで建物の基礎を作る、言ってみれば工場建設の礎となるもの。
3月はこの基礎工事が重点的に行われ、1日に1.5本の割合で杭を打ち込むべく、ハイピッチで作業が進められている。
地中には3月だけでも20メートル級の杭が実に27本も打ち込まれ、強固な工事地盤が完成するとのこと。新工場プロジェクトの「土台」となる、最も大事な工程がいよいよ始まったことになる。
現場の「土台」づくりと並行して行われているのが、設計・施工のプロフェッショナル達が一同に会す定例会だ。今回は内装や外壁についての打ち合わせの模様をレポートする。
圧倒的な存在感を放つ部品メーカーへ
毎週行われている定例会は、工場の設計を担当しているイヅミ設計事務所様、建設現場の施工をしている谷津建設様を中心に、設備関連担当のSSE様、電気関連担当の佐久間電設様ほか、地元神奈川県の有力企業のスペシャリストが、常時約10名参加している。
今回は内装・外装計画を話し合うキックオフの場として、設計と施工の責任者が集まり、現状の確認をしながら、今後の道筋をつくるべく重要な話し合いがもたれた。国内のみならず海外からの問合せやMIZUKIの工場内での研究・開発をはじめとする対応など、多岐に渡る業務を平行して進め、従業員の我々からしても「多忙極まりない」弊社代表の水木ではあるが、通常の定例会以外にも、なぜこのような打ち合わせを数多く行っているのか? 代表の水木に話を聞いた。
「新工場を建設するのは、私の人生の中でも大きな決断であり、チャレンジでもある。
単に神奈川県と山梨県にある工場を統合するのが目的ではなく、多様化するニーズに応え続け、圧倒的な存在感を放つ部品メーカーとなることだ。つまり、“世界に通用する部品メーカー“として進化を遂げるための大きな一歩を踏み出すことを目的としている。
そのためにも、ただ工場という箱をつくればいいのではなく、人や製品が効率的かつスムーズに移動できる動線をはじめ、ご来社いただく国内外のお客様にどんなMIZUKIイズムを感じていただきたいかといった“ソフト面”についても、建築やデザインのプロフェッショナルたちの経験や技術をお借りしながら、ベストな回答を出したいと思っている」
「世界に通用する部品メーカー」になるためには、想いだけではきっと実現しない。つまり、今回のような打ち合わせを重要なピースと考え、一つひとつ着実に進行させているということなのだろう。
人の流れは「生命線」
今回の打ち合わせに参加したのは、工場の設計を担当している向山孝一氏(イヅミ設計事務所/一級建築士)と建設現場の総監督をしている伊藤雄之介氏(谷津建設/一級建築士)と弊社代表の水木の3名。
まずは向山氏と新社屋の「人の流れ」について綿密な話し合いがされた。図面の上では、オフィス機能を持つワークスペースと、従業員の食事場所や休憩所となるラウンジスペースは、廊下をはさみながら壁で仕切られていて、現状ではお互いの様子が見えない設計となっていた。しかし、水木はこの設計に対し「お互いの存在を感じ合える可視性」というテーマを投げかけた。
「オフィスの壁に大きな窓を作ることができないか? ワークスペースのどこにいても、MIZUKI社員の表情や動きが互いに心地よく伝わる空間づくりを検討してみたい」と水木。
それに対し、設計の向山氏は、「社内なので開閉ができない『はめ殺し』の窓を設けてみたらどうか? それなら構造上も工期もそして予算的にも大きな影響がなく設置できると思う」とコメント。瞬時に水木の意図をくみ取り、具体的なアイデアが示されていた。
また、日々のメンテナンスや衛生面を考えると、ラウンジスペースは土足禁止にするケースもあるが、そうした場合、シューズボックスの位置はどこが妥当か、人の往来が集中する時間帯にストレスなくスムーズに人の流れができるのかなど、一つひとつの行動パターンを想定しながら議論がなされた。
水木は「人の流れは、いい仕事をする上での生命線だ。〈ここでは〜〜しなければいけない〉という行動の規制がある動線は、いつか破たんし結果的に効率性を欠くことになる。規制ではなく、運用の工夫をすることで、人とモノのいい流れを作っていきたい」と語る。
この日は国内外の事例などを参照しながら議論を進めたが、今後はお付き合いのある工場を実際に見学しながら、MIZUKIにとってのベストな〈生命線〉を探っていくとのことだ。
打ち合わせの中で建築士の向山氏は、新工場プロジェクトに対する意気込みを次のように語る。
「今まで数多くのプロジェクトを担当してきたが、今回のように、「無難な設計をすればいい」のではなく、こうして社長と膝を突き合わせ、MIZUKIという会社の目指す方向性を共に確認しながら詳細設計を進めていくことに、大きなやりがいを感じています。水木社長は”こうしたい”というビジョンを明確に示してくれるので、我々はそれに対し、建築にまつわる技術や経験を総動員し、答えを出していこうと意気込んでいます。今後も建築士という立場で法的な規制などにもきちんと気を配りながら、水木社長をはじめ、建設現場のみなさんと連携を深め、着実に実行していきたいと思っています」
最大の責務は無事故・無災害で工期を終えること
設計の議事が終了した後、建設現場の総監督を務めてくださっている谷津建設の伊藤氏より、現行のスケジュールはおおむね予定通りに進行していると報告があった。
現場では、天気と時計と工程表とを常に確認しながら作業を進めているという。
「全体スケジュールから逆算すると、今日はもう少し作業を進めたいということもありますが、安全が最優先です。天候が崩れれば作業をやめる判断も私の重要な仕事です」
と伊藤氏。その遅れをいかに取り戻すかに現場監督者としての手腕が問われると言っていたのが印象的だった。
また、本プロジェクトについては、「とにかく無事故・無災害で、MIZUKIの皆さんが喜んでいただける工場を作りたい一心だ」と強調する。
その短い言葉の中に、命をかけた仕事をしてくださっているプロの姿勢を感じた。私たちMIZUKIの従業員も、毎日徹底した安全確認を行いながら作業を進めているため、伊藤氏が話す「無事故・無災害であること」の言葉の重みが心に深く響く。
今回の打ち合わせでは、改めて設計や建設のプロたちが、情熱と誇りを持って、新工場の竣工にむけて取り組んでくださっている姿勢を感じた。
代表の水木は、ミーティングをこんなコメントで締めくくった。
「正直、予算・工期・建築法の制限など、いろいろな縛りがあるので、自分の「想い」を全て叶えるのは難しいこともわかっている。しかし、なぜ私がここまで設計にも力を入れるかといえば、お客様はもちろんのこと、従業員やその家族の皆さんにとっても、誇れる場所にしたいという想いがあるからだ。MIZUKIの新工場は、東名高速道路からもよく見える場所に建つ。ここを通るたびに『MIZUKIがあるな』と思ってもらいたいし、毎日社屋に足を踏み入れるたびに『よし!今日もいいものつくるぞ!』という前向きな気持ちをみんなにもってもらいたい。
そういう想いや姿勢がきっと「世界に誇れる部品メーカー」の土台となると信じている」
建設現場では、地表に確認できる建物は、仮設事務所以外にまだないが、20mを越える27本の杭が打ち込まれ強固な「土台」が完成しようとしている。
そして水木が語る”世界に誇れる部品メーカー”になるためには、「もうひとつの土台」である水木を筆頭とした、従業員やその家族、そして協力関係各者の「一体感」が必要だ。
ふたつの「土台」は、この新工場プロジェクトを通じて着実に固められていくように感じる。MIZUKIの新工場建設が、私たちの揺るぎのない未来を創る足がかりになるのだと、武者震いのような、引き締まる思いがした。